Page 13 - 神戸フィルムオフィス20周年記念
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爆を受けた。『火垂るの墓』の主人公の家は 御影、『少年H』の妹尾家は長田区。この距 離の違いで少年たちの運命は大きく異なる。
『少年H』では戦前、テイラーを営む父が仕上 がった服を届ける先として北野町の異人館、 萌黄の館が登場する。『火垂るの墓』の原作 で重要な場所として出てくるJR神戸駅と阪 急神戸三宮駅には今でも機銃掃射の跡が残 っているので、確認してみてほしい。  神戸を語る上で1995年1月17日未明に起 きた阪神・淡路大震災を避けては通れない。 神戸フィルムオフィスの初年度の支援作品 である大森一樹監督の『走れ!イチロー』は 震災からの復興が題材で、賑わいを取り戻 す元町高架下や当時オリックスの本拠地だ ったグリーンスタジアム神戸(現・ほっとも っとフィールド神戸)が登場する。被災地で 最も早く撮影が行われたのは95年10月から 撮影が始まった山田洋次監督の『男はつらい よ 寅次郎紅の花』で、甚大な被害を受けた 長田区菅原市場商店街の人たちの呼びかけ で実現した。06年公開の万田邦敏監督の『あ りがとう』は長田区鷹取商店街の消防団団長 だった主人公の目を通しての復興までの長 き日々が描かれる。フランスのジャーナリス トが震災から15年目の追悼式を取材する内 容の『メモリーズ・コーナー』(オドレイ・フ ーシェ監督)では重要な舞台である復興住宅 棟としてHAT神戸で撮影が行われた。この 作品と、井上剛監督の『その街のこども 劇 場版』は2010年1月17日の東遊園地での追悼 式典会場の様子で幕を閉じる。見比べては どうだろうか。  神戸フィルムオフィスの支援作品には、震
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災直後からの神戸の風景の変遷がその都度、 記録されている。三島有紀子監督の『繕い裁 つ人』では中谷美紀演じるヒロインは祖母の アトリエを継ぐ仕立て職人。その腕に惚れ 込んだ大丸の若い青年がブランド化を持ち 掛ける。ヒロインは劇中、様々な思いを抱え ながら復興した街を眺めるのだが、そこが旧 摩耶道に至る雷声寺前の坂道。三浦貴大演 じる藤井君は毎度あの坂を上って会いに行 っていたのかと感心してしまう。  2015年の濱口竜介監督の『ハッピーアワ ー』になると震災の傷痕は直接出てこない。 だが、30代後半の4人の女性たちの心はどこ か虚ろだ。彼女たちが充足を求め、足を向け るのが神戸税関前にあるKIITO(デザイン・ クリエイティブセンター神戸)でのワークシ ョップ。実は4人のヒロインを含め、出演者 は皆、KIITOで開催された濱口監督によるワ ークショップを経て出演していて、作品は国 内外で高い評価を得た。ちなみにリニュー アル前のKIITOで学園紛争最中の新聞社を 再現したのが山下敦弘監督の『マイ・バッ ク・ページ』。同じ建物でも美術監督によっ て見せる顔が大きく違って面白い。  私事だが神戸への帰省中、筧昌也監督の
『Sweet Rain 死神の精度』の撮影に遭遇し、 死神役の金城武が旧居留地の雰囲気となじ んで佇むのをワクワクしながら見たことが ある。神戸にいれば、映画撮影に恵まれる機 会はあるだろう。そのときは、音を立てず、 静かにその幸運を享受してほしい。
きんばらゆか●神戸市出身。25年にわたり、1000人以上の映画 俳優のインタビューを実施。雑誌や新聞などで映画評を執筆し ている。
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